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今月の言葉(第30回)

     「春に詠う」


             "春暁(しゅんぎょう)"   孟浩然(もうこうぜん)  (689-740)


春眠(しゅんみん) 暁(あかつき)を覚(おぼ)えず    処処(しょしょ)に啼鳥(ていちょう)を聞く


   夜来(やらい)  風雨(ふうう)の声     花落つること知んぬ多少ぞ


 心地よい春の眠り 寝過ごして夜明けも気づかない。目が覚めてみれば、あちこちで鳥が鳴き、夜中には風雨の声が聞こえた。昨夜の嵐でどれだけ花が散ったことであろうか。


           "春夜(しゅんや)"   蘇東坡(そとうば) (1036-1101)


    春宵(しゅんしょう)一刻(いっこく)  値千金(あたいせんきん)   花(はな)に清香(せいこう)

あり 月(つき)に陰(かげ)あり


    歌管(かかん) 楼台(ろうだい) 声(こえ) 寂寂(せきせき)   鞦韆(しゅうせん) 院落(いんらく) 夜(よる) 沈沈(ちんちん)


  春の夜は一刻千金に値する。花は清清しい香りを放ち、月は朧にかすんでいる。歌や管弦の音が響きわたっていた高殿もすっかり寂しく静まりかえり、ブランコのある中庭に夜は深深とふけてゆく。


           "春望(しゅんぼう)"   杜甫(とほ) (712-770)


    国(くに)破(やぶ)れて 山河(さんが)在(あ)り    城(しろ)春(はる)にして 草木(そうもく)深(ふか)し


    時(とき)に感(かん)じて花(はな)にも涙(なみだ)を濺(そそ)ぎ 別(わか)れを恨(うら)みて鳥(とり)にも心(こころ)を驚(おどろ)かす


    烽火(ほうか) 三月(さんげつ)に連(つら)なり      家書(かしょ)は万金(ばんきん)に抵(あた)る


    白頭(はくとう) 掻(か)けば更(さら)に短(みじか)く  渾(すべ)て簪(しん)に勝(た)えざらんと欲(ほっ)す


 杜甫の五言律詩です。おそらく我が国で最も有名な漢詩ではないかと思います。吉川幸次郎先生の「新唐詩選」から一部引用すれば、この詩は、「乱が起って国はぼろぼろに破壊されたが、山河大地はそうした人間の不幸に超然として残っている。町々には今年も春がめぐってきて、草木も青々と茂っているが、時世を感じて花を見るにつけても涙がでるし、なんとなく不安で鳥の鳴き声にも驚かされる。乱によってあちこちに起る烽(のろし)の火は、この美しい三月になっても未だやまず、疎開(そかい)している家族はどうしているだろうかと思う。消息の絶えた今、家からの便りがあればそれは万金に値するものだ。憂いに任せて掻く白髪はいよいよ薄くなりヘアーピン(簪:かんざし)もさせなくなってしまった」、というような悲痛な感情がうたわれています。壮大な野心の達成と滅びの美学は、古代中国だけでなく広く我が国においても、心を捉えて放さないロマンチックな心情です。松尾芭蕉が詠んだ俳句"夏草や 兵(つわもの)どもが 夢の跡"には、この詩の影響が強く感じられますがどうでしょうか。(了)

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